2012/12/20

ハンドルバーの前倒しセッティングについて

  2012年、ヨーロッパでやたらと流行った「ハンドルバーの前倒しセッティング」。
でも、元祖前倒しセッティングのジル・クスティリエは、実は2010年から既にあのセッティングに挑戦してました。
あんまりじっくりとは見てないけど、130mmステムxハンドル前倒し → まだハンドルが遠いから20in用の150mmステムに変更 → まだハンドルが近いから、150mmのステムでハンドル前倒し、で今に至っている様に見受けられます。
もう、ハンドルバーを遠くしたい=マニューバスペースを大きくしたい一心ですね。

ジルの影響は絶大なので、ヨーロッパでは多くのライダーがあのセッティングを真似ています。でも、その真意を理解して100%あのセッティングの美味しさを活かしているライダーはそんなに多くないと思ってます。
加えて、不用意に真似すると手首・肘・肩に重大な問題を生じる原因になるので、あのセッティングを導入するなら以下を読んで頂いて納得の上で実践して下さい。


まず、長所=メリットについて。ハンドルが遠い事で得られるメリットは『ダニエルから前/上に跳ぶ時、身体のストロークする距離が伸びるので、より遠く・高く飛べる』、 これに尽きます。

特に『距離+高さ』を飛ぶポイントでは、「大きく飛んで前輪からぶっ刺して、そこから後輪にスイッチ」というテクニックが有効であり、UCIの世界戦やワールドカップでは、逆にこのテクニックが無ければ走れない様なポイントが所々にあったりします。20inのトップライダーが「こんなもん、絶対飛べねぇ」というポイントを26inなら飛べる。ライダーの進化に合わせてセクションは難しくなるし、そのセクションに合わせてライダーはさらに飛ぼうとする。

そういう相乗効果から、より大きく飛べる様に…と進化したハンドルバーのセッティングが、あの前倒しポジションと言えますね。

「前+上」に飛ぶ時だけでなく、真上に飛ぶ=ダニパラにおいても、メリットが生まれます。
ハンドル位置が遠いという事は、前輪を持ち上げた状態でハンドル位置が高くなるという事。腕で体を引っ張り上げる動作を行なうのに、ハンドルバーの位置が高ければ高いほど、身体の最終到着地点が高くなるので、より高く飛べる=高い段差に上れるという事になります。

ハンドルバーがあらぬ方向を向く事で、もうひとつ副産物的なメリットが生まれます。
下の二枚の写真、左が前倒しのセッティング、見が通常のセッティングです。わかりやすい様にかなり大げさに前に倒してるおかげもありますが、2枚の写真を比べると肘の角度と脇の開き方が全く違うのがわかりますね。
脇が開けば、それだけ身体の大きな動きの自由度が増すし、通常のセッティングでは使えない所の筋肉が使えたりするので、より大きく飛ぶ事が可能になります。


更に言えば、 ダニエルの状態で止まりやすいというメリットもありますね。体とバイクのV字が浅くなるし、力も少なくて済むので。

メリットを考えると、「さらに飛べるなら、このセッティングが良いじゃん?」という事になりますが、誰にでも恩恵があるわけではありません。

まず、体を動かすスペース=マニューバスペースが大きくなるわけで、この大きなスペースをしっかりと動ききるだけの筋力と、正しい順番で正しく体を動かす技術が必要です。
筋力はひとそれぞれなので、初心者さんでも十分な筋力を備えた人もいるでしょう。でも、技術的な面で言えば、踏み切りと伸び、腕で体を引っ張る動作がしっかりと出来ている必要があります。身体能力が優れていなくても、大人の体格で技術がしっかりと身に着けば、ダニパラで80cm/前輪をぶつけないステアケース20inで80cm/前輪をぶつけないステアケース26inで100cmは絶対に上れます。これが上れる技術があれば、技術に伴って必要なだけの筋肉も備わっているはずです。
逆に言えばこの高さを上れないのであれば技術的にまだまだ覚えるべき事があると言えます。また、ハンドル位置が遠い事のメリットは活かせないどころか、マニューバスペースが遠い事で、腕や足に必要な力が入らず、余計に飛べなくなるという事にもなります


また、技術や身体能力に関係無く、怪我の可能性がつきまといます。
曲げの浅いハンドルバーであればあまり問題が出ない場合もありますが、曲がりがキツめのハンドルバーを前倒しにして乗ってみると、手首の外側や肘に張りを感じるはずです。 この状態で大きな衝撃が加われば、手首や肘、場合によって肩を怪我する可能性があります。
高い飛び降り等もそうですが、前輪をぶつけてのステアケースや、ダニエルで前に飛んで前輪をぶっ刺して…というテクニックを練習する時、どうしても力加減がわからずに体に負担をかけてしまうものです。
一番大きな負担がかかるのは、実はステアケース。
中級者さんにありがちですが、限界ギリギリの高さに上ろうとして、大きく飛んでバイクを前に押し出す。腕が伸びきった状態で後輪が上りきらずにゲシっと段差の角や壁に後輪がぶつかるというケース。この時、かなり大きな負担が腕全体にかかってます。手首の角度がハンドルに合ってないというだけでも、簡単に手首の骨が折れてしまう位なので、おかしな角度にハンドルをセッティングしていればさらに深刻な事になりかねません。


ある程度しっかり体が動き、技術も身に着いて、失敗しそうな事にチャレンジする時も体にむりな負担をかけない乗り方が出来る。早い話しが中級者から上級者へのステップを上がっている中級者さん、または上級者さんで無ければ、ハンドルバーの前倒しセッティングはオススメ出来ません。
初心者さんが「ダニエルが上手くならないから、試しにハンドルを前倒しに…」というのは良いと思いますが、そのセッティングのまま乗り続けるのは避けた方が懸命です。


上級者さんで「もっともっと飛びたい!」というライダーさんには、マニューバスペースを広げるのは確かに有効です。
でも、マニューバスペースを広げなくても、ハンドルバーを短くする事で腕のストローク量が増え、マニューバスペースはそのままで身体の動く距離を大きくする事は出来ます。 実際、ジルもハンドルバーを目一杯短くカットして乗ってます。

 どうしても前倒しセッティングを実践するのであれば、手首や肘に極力負担をかけない様心がけてください。
曲げが浅いハンドルバーを使用する事は有効だし、ハンドルバーを短くするのも有効です。場合によってはハンドルバーの握り方も調整してやる必要がありますね。
ハンドルバーをまっすぐ握るのではなく、ハンドルバーの先端が小指の付け根ではなく手の平にくる様な、例えばゴルフのクラブや剣道の竹刀の左手の握り方をする事で、手首の角度を調整する事が可能です。

ハンドルバーを倒す限界は、ハンドルバーの跳ね上げの角度が垂直となる所。これ以上ハンドルを前に倒すと、手首が一段とおかしな角度になります。
 また、ハンドルバー自体を柔らかめの物にするのも体を守る為には有効です。カーボン、もしくは柔らか目のアルミのハンドルバーの使用を強くオススメします。


また、マニューバスペースを広げるなら、ハンドルを前に倒す前にステムを長い物に変えるという選択肢もあります。
ステムを長く→ハンドルを短く→それでもまだ足りないという時の最終手段として、ハンドルの前倒しを検討すれば良いかな?と思います。

追記 2014/01/08

2013年、既に世界のトップライダー達はハンドルの前倒しを控えめにしていました。「どうもおかしいらしい」と、ようやく気付いた様です。なお、 2012年/2013年、2年連続で世界No.2を獲得したフランスのオーレリアン・フォンテノイは、前倒しにしていたことすらありません。
一部トップライダーが奇抜なセッティングをしているから…、何も考えずに、「トップライダーがそうしているから」という理由で多数のライダーがそれを真似ているから…。そんなしょうもない理由で「これが定番」と信じ込まないで、冷静に自分なりのポジションを探してもらえればと思います。。



  ベンド角の浅いハンドルバー