ブレーキはとても大事
  「トライアルバイクをセッティングする時、一番気を使うパーツは?」と聞かれたら?多くのライダーはブレーキと答えるのではないでしょうか?
「ものすごい低速走行」が基本となるトライアルでは、ペダルのベアリングがガタガタになっていても、ハンドルがちょっと曲がっていても、そこそこ走れてしまいます。 (細かい所も気になるんだぁ!というA型気質の方もいることと思いますが・・・。))
でも、もしブレーキがきかなかったら…。気持ち良く走れないだけでなく、時として非常に危険です。

ブレーキの進化にあわせてトライアルのライディングテクニックは進化してきました。
良くきくブレーキが有るからこそ出来るワザやトリック・・・、裏を返せば良くきくブレーキが無ければそのワザやトリックをマスターするのは非常に難しい・・・ということです。
良くきくブレーキ=制動力の強いブレーキがあれば、「ブレーキが滑ったらどうしよう・・・?」という不安が無くなって思い切ったトライが出来ます。
また、良くきく=ブレーキレバーを握る力が少なくてすむという事は、長時間のライディングでも疲れにくいですし、余計な力が入らない事でリラックス出来るというのも大きなメリットです。特に初心者さんはどうしても全身ガチガチに力を入れてしまうので、「リラックスって何やねん?」という事を覚えるためにはとても有効です。

 BMXのフラットランド、BMXやMTBでのストリートにおいては、前後のブレーキを取り払った「ノーブレーキ仕様」で乗っている硬派なライダーも少なくありません。ここ数年でトライアルでもノーブレーキで乗ってるライダーが出てきましたね。
「己の限界にチャレンジ」 というスタイルはかなり男前ですね。トライアルにおいても、中・上級者のトレーニングで「ブレーキに頼らないライディング」を覚えるためにブレーキがきかない状態で乗る経験も必要な事だと思います。

トライアルではブレーキがきかないと話になりません、でもきけば良いってなものでも無いので注意が必要です。

制動力は高ければ高いほど良い?

 ブレーキのきき を 『制動力』と書きます。 
『制動力』の「高い/低い」を決めるのは、『摩擦力』 と ブレーキ自体の『はさみ込む力』です。
『摩擦力』については、ディスクブレーキであれば「パッドとローターの相性次第」、リムブレーキであれば「ブレーキシューとリムの状態の相性」による所がありますが、パッドとブレーキシューは各メーカーの研究と努力のおかげでかなり高性能な物が市販されています。
『はさみこむ力』についても各メーカーは研究と努力を重ねており、この力が異様に高いブレーキも市販されています。

この制動力、「高ければ高い方が良い」と単純に考えられがちですが、本当にそうでしょうか?

『摩擦力』が高くなれば、ブレーキをかけた瞬間「ガツン!」とブレーキがきいたり、リムブレーキではブレーキの力を緩めようとしてもブレーキシューがリムからはなれにくく、時間差が出来たりガタガタと揺れが出たりとコントロールしにくくなってしまいます。

『はさみこむ力』を強くするには『レバー比』、つまり「ブレーキレバーを1kgで握った時に、何kgのはさみこむ力を発生させるか」を強くする事になりますが、『レバー比』が高くなるとどうしてもブレーキレバーを握った感触がブヨブヨとしてしまいます。
リムブレーキでは『2011〜2013モデルのMAGURA HS-33』、ディスクブレーキでは『HOPE Trialzone』が代表格ですが、どちらのブレーキも「ブレーキシューがリムに接触した状態」「ブレーキパッドがローターに接触した状態はさみ込んだ状態」からさらに、いくらでもブレーキレバーをグニグニと握り込めてしまいます。


どの位ブレーキレバーを握れば、ブレーキがどのくらいの制動力を発生するか?
今ブレーキがどの位滑っているから、ホイールをロックさせるためにはどの程度ブレーキレバーを握り込めば良いのか?

そういった感覚を理解して、ブレーキレバーを握る力を無段階で調整出来る感覚と技術をもったライダーさんであれば、どんなブレーキでも問題無く乗れます。(好き/嫌いはあると思いますが…)
ですが、特に初心〜初級者さんはブレーキレバーを無用に握り込みがち…。例えば、「ブレーキレバーを30%の力で握れば十分ホイールがロックする」という状態でも、どれだけの力で握ってよいのかがわからないため100%の力で握り込んでしまう傾向にあります。

レバー比が低い=ブレーキシュー/パッドが、リム/ローターをはさみこんだ時点でブレーキレバーがカチっと止まり、そこから無用にブレーキレバーが動かないブレーキであれば、ブレーキの感覚はつかみやすいです。「どの程度ブレーキレバーを握り込んだらブレーキがかかり、どの程度の力でレバーを握り込んだらどの程度の制動力を発揮するのか?」「どの程度ブレーキレバーを握る力を緩めればブレーキが滑りはじめて、そこからもう一度ロックするにはどの程度ブレーキレバーを握り込めば良いか?」
レバー比が高いブレーキででこの感覚を覚えるには、よほど感覚が優れたライダーで無ければ非常に長い時間がかかります。
高く・遠く飛べるから上手に見えるライダーでも、この感覚が無いが故に競技では成績の出せないライダーもたくさん見受けられます。
「あと少しだけ無駄な力が抜ければどんどん上達するのに」という段階なのに、ブレーキレバーを握り込み過ぎて→ついでに腕と肩に力が入り過ぎてなかなか上達できないライダーさんも見受けられます。
トライアルの基本である「脱力」 と「ブレーキのコントロール」。これを覚えるのに制動力が高すぎるブレーキが大きな妨げになる事があります。


リムブレーキであれば油圧であってもVブレーキであっても、ブレーキシューだけトライアル用の物を使用すればトライアルで使うのに最低限の制動力を発揮します。
ディスクブレーキは少し難しくて、例えばSHIMANO社の製品の様に「コントロール性を最重要視する」というブレーキであれば制動力が不十分な場合もありますが、ある程度の制動力を発揮するブレーキであればよほどディスクパッドとローターの相性が悪くない限り、また究極の制動力を求められる状況でない限り、トライアルに使うのに制動力が足りないという事はありません。

ブレーキの感覚とコントロールする技術を身に着けたうえで、「競技において疲労を軽減し、最後のセクションまで最高のパフォーマンスを発揮するため」という目的であれば、制動力の高いブレーキの使用は推奨できます。

しかし…、

制動力は必ずしも高すぎる必要はなく、制動力が高すぎる事が正しい技術と感覚を身に着ける妨げになる。

ブレーキを選ぶ時に覚えておいてほしい、とても大事な事です。


ブレーキが滑っているならブレーキレバーを強く握れば良いだけ。 ブレーキレバーを握り込むから疲れて長時間走れないというなら、ブレーキに頼り過ぎているか、もしくはただのトレーニング不足ではないかと思います。

「子供は力が無いから、それだけ制動力が高くないと…」という話も聞きますが、誤解の無い様に。瞬間の握力を計る握力計の数値には出にくいのですが、 体重と握力のバランスや筋持久力を考えると子供の方が大人より高いです。
鉄棒や雲梯で遊びまわってる子供達を見れば一目瞭然ですね。

   

  トライアルバイクのブレーキ。